【タイトル】  ライトファンタジー〜勇者と魔王〜 【作者】  水瀬愁 【管理】  小説家になろう[ウメ研究所] 【サブタイトル】  tempo rubato ma quasi con fuoco/王の命令(11)(第67部分) 【ジャンル】  ファンタジー 【種別】  連載完結済[全82部分] 【本文文字数】  2000文字 【あらすじ】  語られるは旋律、輪になって踊る道化師達の伝説。ある道化師は勇者の名を語り、またある道化師は魔王の名を名乗り。王道から成る、世界の真実をぶち壊す、ファンタジーストーリー 注意 小説には著作権があります。この小説を無断で再配布・転載する事は著作権法で禁じられています。 (C)水瀬愁 ************************************************  力の目覚めを、感じた。  まるで、夜があけて眼を開いたかのように。全てが敏感なまでに感じられ、自然と違和感も無い。  ギュッと、片手を握りこむ。  竜の唸りのような音がして、片手が握りこまれた。クロシュは想う。これが己の片手だと。  それは、黒い。  全身に走る紋様とシルエットだけの、簡易な外見。しかしその内は神の匹敵するほどだと、クロシュは自分のことながら驚く。 「ナナは――優しかった」  これならばいける。両脚を引き寄せて、一気に伸ばす。宙を蹴って、前へ、前へ。  背中を誰かに押されたかのような、めまぐるしい推進力。一瞬だけ目眩がして、すぐに適応する。所詮は己の身なのだ。翻弄されてしまう理由などどこにあろうか。 「少ない飯を、自分も腹が減ってるだろうに、半分も分けてくれた――」  瞬く間に迫る彼の存在。こちらが黒の神なら、やつは蒼の神。こちらが紋様のみを走らせているなら、やつは紋様に沿った鎧をまとっているといっていい。だが、解る。あれは見た目でしかない。目に見えないが、神という質は同等なのだ。ならば、まだ勝勢も敗勢も在りはしない。 「自分も濡れるってのに、ナナは俺に傘を差し出してくれた――」  手を握りこみ、刃をイメージ。しかし間違えるな。籠める念は、一風変わるのだ。混じり気の無いそれを一心に注ぎ、タイミングを見計らって腕を前へ突き出す。 「優しいナナの隣が――俺の居場所だったぁぁああ!!」  ギィンと、音がした。振り切った腕には、得物(サイズ)が在る。眼界には、その得物によってつけられたであろう傷をもつ蒼の神。願いを束ねたが、その結果の傷はまだまだ浅いようだ。もっと強く。もっと鋭い刃を。願いをさらに集い、振り切った得物を再び蒼の神へ向ける。  だが、相手もそうやられてばかりではない。こちらが振るうよりはやく得物(ピストル)を構え、リロード。 「アンタへの復讐を想う中で――」  回避という選択肢を除外し、間に合うことを思い込んで続行。振るったこちらの得物と、やつの得物より放たれた弾丸が衝突した。反動を受けてこちらの得物が後ろに行く。やつの得物のマズルがこちらを注視してくる。 「アンタへの復讐だけ考えてきた中で――」  手は考えてある。反動で得物が後ろにまわったのと同時に、身も若干ながら後ろに傾いた。その姿勢から強引に宙を蹴り、予想通りの一回転をもって蒼の神の足元を往く。  発砲音が鳴った。気にはならない。身が軋む。それでも必殺の一撃は揺るがない。 「護ってやりたいって――思えたんだぁぁあああ!!」  紅い斬撃を乱舞。全部を出し切って、蒼の神の身が瓦解するまであと一押しだと見込む。  そう思った途端、蒼の神の忌眼がギラリと光るのを見た。 「……うぉおおおおおおおおおおオオオオオオオオ!!」 「アアアアアアアアアアアアア!!」  絶叫と絶叫。真打と真打。威と威。全力と全霊と、すべての生命の灯をかけて衝突する。  撃閃が煌くこと三百六十手。疲労は無く、思考も澄み切ったままだ。  だが、どう選択肢を微調整して裏を掻こうとしても、現状が一切変わらない。  鋭利を望んだだけではだめか。抜刀速度を高めるだけではだめか。最大威力を底上げしてもだめか。手数を増やしてもだめか。  ならば――どうする。  蒼の神は、律動を同調させてきている。手数も、威力も、速度も、同じにしてきている。  合わされている――問われている。  錯覚がした。嫌気がする。しかし、冷静は揺るがない。  ……考えろ。  許されているのならば、そうするのが最高の選択。逆転しなければならないなら、思考は必須要素。  ……考えろ――ッ!  雄叫びをあげる。一端、距離を開けることを望む。銃撃の報復が危険だが、今のまま剣戟を重ねても何も済みはしない。ならば、一矢報いるのを狙って自身から流れを絶つのもまた手。  そして、やはり来た。逃避する我へと、牙が。  視界にあるものだけでも、数える。瞬時に八本だと理解。位置から射線を導き出し、避けるものと避けれぬものを――避けられるものと、受けてもいい最低限の数を、考える。 「グゥ……ッ!」  受けてもいい数といっても、痛みの許容についてはゼロだといっていい。身体は壊れないが、精神は崩壊の手前まで傷つけられてしまう。歯を食い縛って、逆鱗の想いで蒼の神の屈服を望む。望んで、動く。 「ガァァアア!!」  初速から全開。弾幕を突き破られて無防備な蒼の神に、素の牙たる三数の爪を突き立てる。  ギィンという、鎧を粉砕した音。それを背後に聞く我は、蒼の神を突っ切って、絶好の位置を取る。  ……成功だ。  自然と浮かぶ嘲笑(ちょうしょう)。逆転の一手が、今、我に委ねられている。真実が感動を巻き起こす。それを脳裏の隅に押しやって、爪撃とは別の方の腕に血流と全霊を叩き込む。  故に。  ……これで―― 「終わりだぁああああAああアアア!!」  世界(せんじょう)にノイズが走る。我の得物が突っ切って、視界の内で蒼の神が上と下に裂かれた。