【タイトル】  ライトファンタジー〜勇者と魔王〜 【作者】  水瀬愁 【管理】  小説家になろう[ウメ研究所] 【サブタイトル】  tempo rubato ma quasi con fuoco/王の命令(13)(第69部分) 【ジャンル】  ファンタジー 【種別】  連載完結済[全82部分] 【本文文字数】  1411文字 【あらすじ】  語られるは旋律、輪になって踊る道化師達の伝説。ある道化師は勇者の名を語り、またある道化師は魔王の名を名乗り。王道から成る、世界の真実をぶち壊す、ファンタジーストーリー 注意 小説には著作権があります。この小説を無断で再配布・転載する事は著作権法で禁じられています。 (C)水瀬愁 ************************************************ 「――ナナッ!!」  間に合った。  閉鎖空間といっても、現実の時の流れは共有してしまう。急がねばならなかった。だから、着いた時に彼女がまだ無事であったため、少しだけクロシュはほっとした。  拒絶の世界から身を引きずり出したときには、クロシュは酷く深刻げな表情へと顔を一変させている。  当然だろう。それほどに、ひどかった。 「お兄ちゃん――」  破けた服。  露出した乳房の白い肌にも、不思議と欲情しない。 「――見ないで」  強烈に渦巻く竜巻の中から、ナナの声が悲願してきていた。瞬く間に竜巻に傷つけられていくナナの身を見据え、クロシュは探す。 「チチルやミシェルや俺では、破れなかった」  問いかけるまでもなく、そう欲しい情報が飛んでくる。こちらの脇にやって来るレスナの疲労気味な顔を見て、クロシュは小さく囁いた。 「……迷惑をかけたな」 「それよりも、だよ」  レスナの目伏せを理解し、クロシュはナナに向き直った。目を細める。  この竜巻は、殻にすぎない。その奥にいるナナは、真空に苛まれている。真空が定着していることには、ナナの力が関係していると考えていい。  "選択"の暴走といったところか。それか、拒絶の昂ぶりに共鳴して、力を溢れさせているのかもしれない。身近に存在している多大な大気を無いと選択してしまえば、こうなるだろうとわかる。  躓いて横になったコップは、持ち上げて縦にするまでは中身をドクドクと漏らし続けるだけだ。制御できないから、ナナには『持ち上げて縦にする』というプロセスが欠けてしまっている。だから止まらない。  予想して、クロシュは拳を握りこむ。願うのは、拒絶。覆えるほどの大きさと、ムラのない濃さとを追求(イメージ)して、現実に投げ込む。  パッと開いた拳から、放った。  ――・≪王は拒絶する≫  すぐに、ナナを取り巻くものに変化が訪れる。  ふわりと柔らかな光がひとしきり迸って、竜巻がみるみるうちに弱まり失せる。二つの枷からナナが解き放たれて、ゆっくりと重力に従って行った。  それは空気があることの証拠。クロシュは笑みを漏らし、ナナを迎え入れようと両手を伸ばす。  そして、ポスッとクロシュの腕にナナが収まった。  静かな寝息。それにともなう僅かな動きと、人の保つ温度が、心地良い。クロシュは途端に悲しいものがこみ上げてくるのを感じて、うっと歯を食い縛った。  泣いてはならない、ナナが起きてしまう。せめて声をあげずにいようと、クロシュは思う。  優しく、しかし強く、ナナを抱きしめた。 「ごめん……隣で護ってやれなくて、ごめん」  愛しかった。  愛しくてたまらなかった。  その気持ちが――より"拒絶"を"選択"に近づけてしまった。  ――・≪王ha選択スる≫  ――・≪おウは拒絶すru≫ 「ッ!!」  クロシュは胎動を感じる……感じるだけで、どうすることもできない。  ――・≪oうハせんたくsuru≫  ――・≪おウhakょぜつする≫  来た。  ――・≪ouハせんタく■ru≫  ――・≪おuhakyo絶スる≫  訪れた。  ――・≪ouhaセンt■■r@uこgt≫  ――・≪■uha■ぜtusうる≫  やって来た。  ――・≪■■■se■■■■@wあsr■tとせ□g■≫  ――・≪■うハ■■■■■≫  世界に光が、閃き、瞬き、満ち、溢れ。  ――・≪□□■■■□■■■■■s■■■■■□■■□□≫  ――・≪h■■■■■ウ■■■■■■■■■■■■■■a■■≫  ――――世界がひしゃげた。