【タイトル】  ライトファンタジー〜勇者と魔王〜 【作者】  水瀬愁 【管理】  小説家になろう[ウメ研究所] 【サブタイトル】  FILE7:聖堂にて、始動する戦い(第7部分) 【ジャンル】  ファンタジー 【種別】  連載完結済[全82部分] 【本文文字数】  4253文字 【あらすじ】  語られるは旋律、輪になって踊る道化師達の伝説。ある道化師は勇者の名を語り、またある道化師は魔王の名を名乗り。王道から成る、世界の真実をぶち壊す、ファンタジーストーリー 注意 小説には著作権があります。この小説を無断で再配布・転載する事は著作権法で禁じられています。 (C)水瀬愁 ************************************************ FILE7:聖堂にて、各地で始動する戦い  木々が生い茂る道。  ガサガサと派手な音を響かせながら、ふたつの光が何度も何度も交差し、爆風を巻き起こす。  ひとつは人の姿を持ち、もうひとつは龍の姿を持つ。  暗黒龍・グルバルドゥム。 『人の子よ、汝はなぜ我と対を成す!』  人の名はリュークス。  リュークスは必殺の斬撃を、紅く染めあげられた大鎌で放った。  だが、斬撃は龍の体に傷一つつけられずに弾き返される。  龍は蒼の長爪を振るい、左右からリュークスを切り刻もうとする。  だが、リュークスは一度の跳躍で避けきると、そのまま体を捻り、斬撃を放つ。  その繰り返しが行われ、どちらも傷一つ負うことはなかった。  しかし、リュークスは人間。徐々にスピードが落ちていく。  龍は楽しむように叫びをあげ、爪を降りおろした。 「!!」  リュークスは体を逸らすが、爪の先がリュークスの服に薄い切り傷を作る。 『失せろ、力無き人間の子よ!!』  龍は口を大きく開けた。  そこから闇が溢れだし、球体となってリュークスに向かう。 「セレ、フレイア!」  道を踏み外した者たちに告ぐ、我は【聖光天使】にして、正しき光の使い――  リュークスの前に現れたフレイアが闇の球体を、光の羽の双剣で斬り裂く。 龍の上空、宙で停止したセレが両手を開き、静かに詠唱をしている。 『その魔力・・・・その羽・・・・貴様等【勇者ご一行】か! 忌々しい運命だな!!』  龍はリュークスからセレに顔を向けた。  そのとき、六本の羽が回転しながら龍にぶち当たった。  そのまま龍の身体へ咲き誇る花となる。 「光羽輪――奪い取りなさい、敵対の心を!」  龍に溢れる闇が、羽根のひとつひとつに吸い取られ、浄化される。 『忌々しい! さすがは血塗られし【生け贄】の力――奪う技を持つか!』  龍は口を大きく開くと、闇の弾を弾き出した。  セレに向かう弾、弾がセレに当たるよりも早く、魔法が始まった。 「晴れゆき、澄み渡る空を汚しし濁怨に、我は祝福を与える。 我が手によって生を断ち、死を持って罪を洗い流し、新たな希望を持って世界に生み落ちよ 我は無慈悲に生を斬るのではない、汚れし生をなくすのだ」  闇の弾と同じような光の弾がセレの手に集まる。  その波動を受けて、闇の弾は浄化される。  光の弾の中に青白い半透明の短剣がいくつも生まれる。 「【圧光刺雨】」  セレは弾を龍に落とす。  少しして弾は風船のように割れ、中にある短剣と細かな光が龍に降り注いだ。  だが、龍の皮膚には傷一つつかない。 「我が皮膚は絶対障壁の呪を受けし、最恐の鎧! 我に傷を負わせることは何者にも不可能だ!」  龍の言葉に、リュークスはニヤリと笑う。  不快に思った龍に、さらに別の、少女の姿が移る。 「サクラさん!」 「ボクは遠距離より、格闘のほうが好きなんだよね!」  サクラの拳が炎に包まれ、龍に爆発の衝撃を与える。  傷はつかず、衝撃だけが龍に伝わり、吹き飛ばされる。  その龍に一跳びで追いついたサクラは、炎拳でもう一度龍を吹き飛ばす。 「結託!」  サクラは拳を解き、両の手を合わせる。  手のひらは龍に向き、炎が形をとろうとしている。 「【爆剣刺突】!!」  炎は収縮し、龍に向かって爆発した。  剣ともいえない形を持った炎が龍の皮膚を突き破り、爆発する。 「剛はね、許容量を越える力を加えられれば砕け散るんだよ。 まあ種はボクの使った炎――というより炎という属性にある【焼却】の能力がある。 君の呪を一時的に焼き消させてもらうために拳をつかったよ」 『貴殿は何者だ、精霊の支役を受けられる者、精霊使いはエルフかダークエルフのみのはず』 「古い知識だ、刻み込んでおくといいよ、【えれめんとますた〜】サクラをね」 「発音違うぞ」 『…………クッ!!』  龍は小さく唸りながら、闇の煙を体内から吹き出した。 龍の姿が包み隠されてもなお、煙は拡大する。 「あ、逃げた」  風の拳で煙を吹き飛ばしたサクラは、言い放った。 キョロキョロとあたりに視線を送るサクラ。 「聖堂に飛んでるみたい、こっちも急ぐよ!!」  サクラはそういうと、風の渦に自らを乗せて上空へと飛びたった。 「国からでてすぐに、こんなことになるなんてな……」 「暗黒龍は勇者の牙を欲する生き物、間にあったことが幸運ですよ、兄さん」  盛大にため息をつくリュークスを、軽く窘めるフレイア。 セレは三人は乗れる大きさの魔法陣のうえで、リュークスに手を振っていた。  リュークスは軽く手を振り返すと、魔法陣に跳び乗った。 フレイアもリュークスに続いて、魔法陣に降り立つ。 「最高速度でいくよ、振り落とされないようにね!」  凹凸の全くない魔法陣で、それは無茶なのではないか。  とリュークスが思っているうちに、魔法陣は残像の光を残しながら、サクラとその先にいる龍に向かって飛び出した。 「あそこにいるのは……」 「人みたいですね……しかも二人……どうします、兄さん?」 「弟君、気配が全く感じられない、屍じゃないかな?」 「なら、さっさと通り過ぎるか」  サクラはリュークスたちの上で、聖堂の入り口に立つ二人の女性を警戒している。  龍の気配は、いつの間にか聖堂内で蠢いていた。  リュークスたちは魔法陣のスピドを早め、女性と女性の間を抜けようとする。 「!?――みんな伏せて!!」  ………ギロリ………  魔法陣がまっぷたつに斬り裂かれ、消滅し、リュークスたちが振り落とされる。  サクラは両の拳に纏わせた炎で、リュークスたちに迫る二つの刃を防いでいた。  その刃の持ち主は――同じ顔を持つ二人の女性。 「双子か? いや、そんなことより――屍じゃなかったのかよ!!」  リュークスは大鎌を瞬時に構え、渾身の力を込めた斬撃を放った。  女性等は空中で二度回転して、それを避ける。 「このひとたち、忍者だよ。 でも、気配が今でも感じられない。 まるで、機械のような……」  サクラはそう呟きながら、地面に降り立つ。 「時間がないっていうのに……」  女性のひとりがリュークスに接近し、もう一人は全員に対して小型のクナイを投げた。  リュークスは鎌の刃ではなく柄で、迫ってきた女性の連続斬撃を防ぎきる。 「光よ、盾となって我らを守りたまえ――【セイント・シールド】!!」 「生け贄天使の命に従いたまえ。 神々しき天の力よ、我が故人を包みて、血を流させることを拒絶せよ――【エンジェルフェンサ ・オールバリア】!!」  二つの半透明の膜が、クナイを退ける。  途端に女性はリュークスから離れ、もう一人の女性の近くにもどる。 「弟君、私が大きめの盾を作って時間を稼ぐから、その間に聖堂に入って」  入り口は女性二人とリュークスたちの対立する戦場の真ん中。 ななめに、大きめの盾を置けば、一気に潜入できる。 「それしかないね……念のためにフレイアちゃんも残って。 あいつらを撒けたらすぐに合流して」 「それしかないか……二人とも、気をつけろよ」  セレは余裕の笑みを浮かべて、リュークスの前に立って構える。 サクラが軽く片手を振り、足元に炎を噴出、爆発させ、入り口に向けて一直線に駆けた。  女性二人ともがクナイの弾幕をサクラに放つが、それがいきなり現れた極光の巨大盾に防がれる。 「あまり長くは持たないから、はやく!!」  【聖光天使】であっても数メートルある盾の維持は難しい。それに、忍者の攻撃もある。熟練の者でも数秒も持たない。 「兄さん、はやく!!」  ピンク色の、半透明の膜が、極光の盾を覆う。  女性達は忍刀を何度も何度も振るっている。  リュークスは手を打った。  ……時間の流れを、自分以外を緩やかにする。  勇者の持つ能力のひとつ――時間の操作を行った。  忍者の動きともども、セレやフレイアの動きも止まったかのようになる。 「リュークス君、早く!!」  【オール・エレメント】を体内に宿すサクラは、干渉の影響を受けずにリュークスと同じ速さで動く。  リュークスは頷くと、サクラとともに聖堂内に潜入した。 「一階から下に降りるのは簡単だったが……ここは迷路だな」  一階にあったのは、隠されていたであろう隠し通路。  まるで突き破られたかのように穴が開け、階段があった。  あの龍は先に降りてしまったのだろうか。  急いで駆け降りたリュークスとサクラだったが、地下三階で苦戦を強いられていた。  リュークスの前方には四つの道。八方だと全部で十はある。 「大丈夫、物探しの魔法の改造版があるから」  サクラは懐からトランプほどの白紙カドを取り出し、宙に放った。  カードは痙攣をおこして、蝶に変形する。 「蝶は導く。欲するものへの道を」  蝶はあり得ないほどのスピードで飛ぶ。  サクラはリュークスを急かすと、炎翼を生やして蝶の後を追った。 「こっちは時間干渉の疲れが残ってるっていうのに……よ!」  リュークスは決死の覚悟で心を引き締め、走り出した。  地下五階。  壁が白い魔力を纏い、脈動している。  サクラは左右に分かれた道の左を行った。  リュークスが右に目を向けると、テラスのようになった行き止まりがある。 「サクラ、こっちから降りられるんじゃないか?」  リュークスは手すりに手を置き、下をのぞき込む。  炎がないのに光を放つ灯台が、左下に広がっており、地下とは思えないほどに整備されている大階段が威光を放っている。  そして、そこには三人の女性が壁に埋め込まれ、出っ張っている白岩を囲むように立ち並んでいる。 「あの女は、入り口にいたのと同じ奴等か……!!」  女性がリュークスに気づく。  リュークスが柄に手をおいたとき、二人の女性がリュークスの両脇で刀を構えていた。 「【最高火力魔法弾 バナス・ソルティア】!!」  二つの弾丸が女性を吹き飛ばし、壁に叩きつける。  サクラの放った蝶は、女性の守る岩の前で札に戻っていた。 「この二人はボクが!! リュークス君は岩の死守を! あのなかに剣がある!」  サクラは手すりに足をかけ、燃え盛る真紅の翼を広げ、飛び落ちた。  壁に打ち当たったはずの女性が、サクラを襲う。 「我が名は卵月、オリジナルにしてここの死守を任された上忍。 侵入者は――滅させていただく!!」  卵月と呼ばれる、岩の前にいた女性が言った。  その女性が持つ曲刀は、いつの間にか降りてきたリュークスの大鎌を抑えている。 「俺は敵じゃねぇ、剣の継承者、勇者だ!!」  リュークスは大鎌を引き戻し、その遠心力でもう一度振るう。  卵月はそれを軽々と防いだ。 「はやくしねぇとやつがくる――」 『カンが鋭いな、勇者よ』  灯台の光が黒に染まる。  空間に波紋を広がせながら現れたのは、龍。 『人間が生み出した、ただ一つ美しき無二の剣を、我に寄越せ!!』  龍は闇の砲弾を放った。  リュークスと卵月は動く、ターゲットを同じものにして。