【タイトル】  ライトファンタジー〜勇者と魔王〜 【作者】  水瀬愁 【管理】  小説家になろう[ウメ研究所] 【サブタイトル】  attacca/始終(3)(第70部分) 【ジャンル】  ファンタジー 【種別】  連載完結済[全82部分] 【本文文字数】  1573文字 【あらすじ】  語られるは旋律、輪になって踊る道化師達の伝説。ある道化師は勇者の名を語り、またある道化師は魔王の名を名乗り。王道から成る、世界の真実をぶち壊す、ファンタジーストーリー 注意 小説には著作権があります。この小説を無断で再配布・転載する事は著作権法で禁じられています。 (C)水瀬愁 ************************************************  広がっている世界は、途方もなく長い薄茶色だった。  満天の蒼穹の下、地平線の彼方すらも見渡せるほど凸凹が無い世界。風に巻き上げられる砂埃が、まるで建物の代わりといったふうに白く昇り上がっていた。  ――無い。  ――無い。無いよぉ。  嘆きが響く。どこまでも響いて、どこからか唐突に失せた。どこまでもどこからも、誰にもわからない。故に、どこにも響いていないと言った方が正しい。  ――なんでどこにも無いの。  ――なんで、なんでよぉ。  嘆きは続く。小さく華奢な身から零し続ける彼女から。金髪と涙を振り乱し、瞳は崩れんばかりに揺らいでしまっている彼女から。  愛しき者が、どこにもいないから。 「お兄さん……一体どこに消えてしまったの…………」  チチルを横に、意識もどらぬナナを抱えるクロシュを後ろに、ミシェルは天に尋ねる。  居なくて、ぽっかりと開いてしまった穴がある。  その穴を埋めるかのように、ぼうぼうと吹き荒れる砂煙はミシェルの身へと少し少し積もっていった。  さらさらと、さらさらと――空虚の砂粒が、心の穴を満たしていく。  どれだけ悲しく思っても。どれだけ居てくれと願っても。  その者はもう、見渡せる限りのどこにも居なかった。       ○  ○  ○  舞台から早々と退場させられたフルフルは、失せた砦をどうするかと、満身創痍の身をずるずる引きずって歩きながら考えた。  処罰すべき対象は、全部消えてしまった。だが、死んでしまったのではないとわかる。フルフルもそれなりの実力者なのだ。力の衝突し合いから予想を立てる程度は、容易。  ――膨大な力が破裂して、飛んでいってしまったとみるが正しいですね。  レスナだけが方向を違えていたのも察している。こちらを打ち負かした、憎き来訪者。あれは帰ったのだろうと、先ほどまで圧力のごとく張られていた閉鎖空間の消失を再確認してフルフルは歯軋りした。  ――これでは意味がない。シナリオを歪めなくてはならないというのに、無駄もいいところだ。 「同じ聖女の過ちをどうにかすると意気込んで、このざま……悲しいな」  少し疲れたと、フルフルはべたっと座り込んだ。ぼろぼろになった衣服のように、フルフルの心も一気に疲弊してしまったのだろう。  空を見上げる。眩い光が目に入ってきて、咄嗟に片手を翳した。  ――この空の続くどこかへと、五人の者を取り逃がしたのだな。  悔しさがこみ上げる。それが燃料となって、疲れた顔をしていたフルフルはキリッと表情を改めることに成功する。  うかうかしてなどいられない。兵士達とすぐにでも合流して、砦を建て直して、  ――……え?  フルフルは硬くなって、驚愕した。思考が失せる。なぜという疑問が、渦巻く。  そんな最中、ゆらりはらりとフルフルの顔にピタッと添えられる――己の片手。  途端にフルフルは恐怖の色を瞳に加えた。傍から見れば可笑しい。己の手が何に見えているのかと、笑いを堪えながら尋ねる者が出てきそうである。  だが次の瞬間を観れば、誰もが笑みを強張らせることだろう。フルフルの突然の恐怖も、理解できてしまうことだろう。  グググッ……!  己の片手が、敵を噛み千切らんとする顎のごとく力強く締め付ける。フルフルの顔に見る間に食い込んでいく怪力具合。フルフル自身、なぜこうなっているかわからない。  まるで失ったかのような感覚。勝手に動いているその手の動かし方を忘れ、まるで奪われたかのような感覚。だがそんなことは在り得ない。しかしここに顕在している。事実とあるのに、説明がつかない。知識不足による矛盾。そう示し合わせれば納得がいくが、混乱した人間にそんなことはまるでわからない。混乱が膨れ上がり、五指が食い込んでくる度に溢れる恐怖がそれにさらに拍車をかけ、自我が崩れ目が泳ぎ息があがり心臓が激動して、  グシャ……ッ!  血の花が宙を突っ切って、大地を汚す色となった。  それとともに、生命がひとつ、奇怪に散った。