【タイトル】  ライトファンタジー〜勇者と魔王〜 【作者】  水瀬愁 【管理】  小説家になろう[ウメ研究所] 【サブタイトル】  f/愚弄(2)(第72部分) 【ジャンル】  ファンタジー 【種別】  連載完結済[全82部分] 【本文文字数】  2011文字 【あらすじ】  語られるは旋律、輪になって踊る道化師達の伝説。ある道化師は勇者の名を語り、またある道化師は魔王の名を名乗り。王道から成る、世界の真実をぶち壊す、ファンタジーストーリー 注意 小説には著作権があります。この小説を無断で再配布・転載する事は著作権法で禁じられています。 (C)水瀬愁 ************************************************  彼女に渡された服に着替え、最後にマントを羽織る。レスナは、野外での着替えの億劫さからやっと抜け出せてほっと息を漏らした。  周囲を見渡す。火山灰色をした地面、空は緋色、緋色に立ち昇る火山からの気もまた緋色に近い。今居る場所はちょうど広大な平地となっていて、ちょっと先に目を凝らせば火山を登るためのでこぼことした道が続いているとわかる。こんな場所に流れ着いたにしては、彼女に見つけてもらったのも含めて、案外幸運だったかもしれない。  彼女は何処かに行ったようだ。着替えろという指示とともにすぐもどると言われているので、レスナはここから立ち去ろうとは思わない。もちろん、言われていなかったとしても、助けてもらった(だろう)こと等のお礼をしなくてはいけないのでここに居ただろうが。  脱いだ方の服を、見下ろす。べっとりついた血。身体にも、傷だっただろう跡があった。予期しない"あの出来事"を脳裏に掠めて、レスナは疑問を無意識の内に箇条書きへと纏める。  同時、考えるのはその疑問の解消法。情報不足でままならないのは確かだが、考えねば付いていけそうにないのも事実。  波乱であろう今の世から取り残されぬためには、きっと必要なことだから。 「なかなか似合っているな。もともとのルックスがいいからか」  訊かれても困るようなことを呟きながら、彼女が戻ってきた。  蒼い髪のロング。服は黒で、比較的肌の露出が多い。黄色を帯びる瞳は、総てを見通しているように透き通って、持ち主の斜め上から傍観する姿勢を受けてどこか冷めてもいる。  レスナは向き直り、姿勢に気をやってから、言葉を紡ぐ。 「なにからなにまで、ありがとう」 「礼には及ばない――その刀剣、至るところをぶつけてしまって変形できなくなっている。失くした銃の方の代用としてでもいいから、これを使うといい」  彼女の片手にある物を、レスナはおそるおそる受け取る。 「リボルバーピストル……」 「名を【トリガーオルゴール】≪死の音色が物を殺す≫ 弾数は無制限。リロードの手間はかからない。しかし、弾丸の威力は一定のままで強化できない。術式を施して小細工というのも、無制限弾数という仕様に影響を及ぼしかねないからやめたほうがいい。いちおう理由も言っておく、マガジンがはりぼてだからどんな銃弾も装填することができない」  マズルから中を覗き込むと、印章が軽く発光しているのが見えた。レスナは何度か握りなおした後、収まる物が無かったホルスターへ仕舞い込む。 「それでは、私は行く」 「……どこに?」  そそくさと歩き出してしまう彼女に慌てて声をかける。 「目的の場所に、かな」  振り返らずに言う彼女。  追わないでおこう、これ以上迷惑をかけてはいけないと思うレスナだが、ひとつ問題を見つけて判断を変えざるを得なくなる。  ――ここはどこだろう。  彼女の背中を見つめ、迷った挙句、レスナは彼女の方へと走り出した。  どう声をかけるか、けっこう全力で悩みあぐねつつ。  ボォォォォォオオオオオ――  そのとき。レスナが決断し終えるのを待ったかのような、ちょうどその瞬間。  彼女の横の地面から、一匹の獣が姿を現した。  いや、獣というのには些か語弊がある――その異形は、まさに竜が退化した成れの果て。  五体も無い。片腕の鋭利な爪の代償か、もう片腕はもぎ取られたかのように失われている。両翼も、身も、溶けるように腐敗しかけている。頭部の一部がぽっこりと盛り上がっていて、それを回るように両眼が位置している。  ≪負竜≫ レスナは血が凍った思いで、そう勘付く。  彼女は対応の兆しをみせない。≪負竜≫の突然の出現に気づけていないのか、気づいているけれど反応が追いつかないのか。  レスナの手段は二つ。剣(ひとつ)は、射程関係でまず無理。銃(ひとつ)は、抜銃している内に大切な機を逃す。  走って追いつくことも不可能なのだから、レスナは一言で表せる結果に辿り着くしかない。  ――守れない。  そして、次の瞬間、レスナは見せ付けられた。  彼女が≪負竜≫に切りつけられる――  真っ白に弾けた思考でレスナはさらに目撃する。  切られた勢いで崩れ落ちる彼女が、ゆらりと身の傾きを直し、  カチャッと、いつの間にか彼女の手に握られた双銃が音をたてて、 「……地に朽ちて、血で花咲け」  手向けの言葉を送る彼女に追いついたレスナが、困惑九割の目で彼女を窺う。  彼女も話を流すつもりはないようで、実になんということはない風に、軽く微笑を浮かべて言ってのけた。 「私は不死だから、心配しなくていい」  正しく言うと、運命からはずれているために死に辿り着かないんだ――その言葉で、確信させられる。  息苦しさを押し殺してレスナは口を開いた。 「俺は……『第一聖女』様の命を受けて、異分子(イレギュラー)を探す者です」 「ほう。なら、良かったな」  彼女は、気を悪くした様子もない。 「お前の探す相手は、私で間違いないぞ」  今までと同じように、笑って言葉を返した。