【タイトル】  ライトファンタジー〜勇者と魔王〜 【作者】  水瀬愁 【管理】  小説家になろう[ウメ研究所] 【サブタイトル】  f/愚弄(6)(第76部分) 【ジャンル】  ファンタジー 【種別】  連載完結済[全82部分] 【本文文字数】  2353文字 【あらすじ】  語られるは旋律、輪になって踊る道化師達の伝説。ある道化師は勇者の名を語り、またある道化師は魔王の名を名乗り。王道から成る、世界の真実をぶち壊す、ファンタジーストーリー 注意 小説には著作権があります。この小説を無断で再配布・転載する事は著作権法で禁じられています。 (C)水瀬愁 ************************************************  六つの銃口に睨まれ、レスナは危機感に駆られながら片手を引いた。  その手に握られた正方形の黒物質――コントローラ――に作用して、遠くに在る刀剣が動く。  それは六つの馬の迅速に追いつき、斬撃を叩き込んで射線を歪めさせていった。  だがそれでも、元々の彼我距離が遠いものは捌き切れない。レスナに向かうのに一番速かった【クーマ】は、何の邪魔も受けずに第二撃を果たさんとする。 「≪決≫」 「【トリガーオルゴール】!!」  【クーマ】から砲撃が迸ろうとする瞬間、レスナが音色をそれに放つ。  音色の直撃が砲先の向きを叩き変え、砲撃は一撃目と同じ末路を辿る。  しかし、今度はそれだけではない。 「ッ!!」  変えられた射線を進路とする【クーマ】はレスナの足場に使われる。強く踏み込み、蹴り上げたレスナは、重力の枷に囚われない数秒を再度手に掴む。  レスナの進路は、あまりにも単純な真っ直ぐ。速度は十分であり、ナタリエに辿り着くためには申し分ないだろうが、狙う撃つには絶好すぎる。  だが【クーマ】は刀剣の突撃を受けて砲先の向きを変えられている。総てレスナの方には向いておらず、意図的さを感じさせる。  【クーマ】が振り向いていく最中、その脇を早く早く駆け去ってレスナはナタリエを見据える。 「なぜ――」  その手に刀剣が収まった。  なぜ、に続く問いは明白。 「――生きている!?」  レスナの、渾身を籠めた一刀。  軽々と、ナタリエの聖柄の小刀に防がれる。 「答えてやろう。圧倒的弱者で、運命に翻弄される番犬(クリグファルテ)にはな」  押し合い圧し合い、ナタリエはレスナにニタリと笑いかける。 「女神は俺に微笑んでいる。故、我此処に在り」 「女神――」 「貴様の知ってる、女だよォ!!」  ナタリエが腕を振り切った。押し負けたレスナが、投げ出される。  そこに待ち構える【クーマ】 レスナは舌打ち一つ、逃走経路を瞬時に予想して下方を見下ろす。  エヴァンジェリンが、目に映った。  片手で何処かを指差している。視線は真っ直ぐレスナを見つめる。  眼差しを受けたレスナが、指差される其方に目を移していく。  レスナはハッと気づいた。  ――コクリと頷いた。  そして刀身の平を足場に、任意の位置へと凄絶な速度で降下していく。 ◇  逃げ延びれると思うな。  ナタリフも降下する。だが、向かうのは後。先に向かわせるのは、牙。 「≪欠≫」  ――今度こそ欠かせてくれよ。  数は四。二つは、傍に寄らせる。レスナ程度が相手なら、どんな不意打ちにも対応し切れる布陣だ。ナタリエは聖柄の小刀を逆手に持ち替え、抑えた速度で行く。  ある程度高度を落としたところで降下を終え、目に焼き付けたイメージからレスナの軌跡を辿る。山壁の、端を曲がって目の当たりにして、 ≪                   レ・リ・リクエル                     リエ・ス・エルファス                     キュエ・ミ・セル・グラフプルリ            ≫  在り得ない氷壁。在り得ない、空気にすら恐れられる"怒涛"の体現者。二つが一つという在り得なさ。  ――なんだこれは。  唖然とそう思ったのが運の尽きか。  目の前で起こる氷壁瓦解に、無防備に晒されたナタリエの心は腰を引かされる。  その次に訪れる脅威。 「ガァァァァァァァァァァァ――」  纏わりつく氷(くさり)を、咆哮に籠められるのと同じ激情が押し退ける。暴走かと思わされる激動、激流、すでに領域は"激暴\"と呼ぶに相応しい。  封印を解かれた男の戦神が、手当たり次第に世界を≪斬刻(きりきざ)≫む。  その偉業は、まず目の前の存在から。まるで炎を埋め込んだかのような、正気の沙汰にない双眸がそちらに向く。  激情を向けられ、認識は『抜き身の刃』 しかし間違えるな。冷徹なものなど一つもない。刃は、他を斬り捨てると同時に業火で燃やし尽くしてしまうような代物だ。  死ぬ。非力な子供のように、覚悟するナタリエ。その前で地の上に再誕した戦神は距離を詰めてくる。  近づいてくる度、あの双眸が近づく度、恐怖が増す――本能的に、ナタリエは思った。  死にたくない。  その感情に突き動かされ、【クーマ】が動く。望まれて出来上がるは、防御形態。前までのナタリエなら誇っていただろう、装甲だ。  だが明白。そんなものは気休めにしかならない。  けれども、ナタリエには見えていないが、解かれた封印は再度封じ込めるための奔流を描いていて、戦神は取り払っても取り払っても纏わりついてくる氷に力を半減されていた。さらに、戦神には氷をやぶることは叶わず、刻一刻と神の猶予は失われていっていて可能なのは一撃程度でしかない。  そして、呆然として動けぬナタリエに遂に戦神が距離を詰めた。 「――アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」 「ッ!?」  一刀。空気を切り裂き世界を穿ち恐怖を運ぶそれが炸裂して、軽々と【クーマ】は大破した。  そのまま斬撃は突っ切っていく。切られた片腕は衝撃に耐え切れず崩散して塵にもならぬ。  本来なら全身がそうなるはずだったが、運命の女神が微笑んだのか、気休めはナタリエの首の皮一枚繋ぐこととなったのだ。  きちんと見れていれば、戦神がこれより眠ることを認めてエヴァンジェリンとレスナに振り返れただろうに。ナタリエの力は【クーマ】だけでなく、まだまだ底が知れないのだから、勝つことも可能だった。  だが今のナタリエは怯える子羊。生命が繋がったと知れば、どう行動するか。 「――ひぃッ!?」  懐から一枚の手紙を取り出し、宙に投げる。それには瞬く間に火が付き、ごうごうと黒く燃え盛った。  ふと、気づけば。  手紙が燃え始めてからすぐナタリエはいなくなり、逃げ惑う姿もどこにもない。  この場から、もう消えた。それを知ってか知らずか、貪欲に世界を喰らうはずの戦神は満足げに口蓋から吐息を漏らし、  氷に、五体のいたるところを掴まれて、  ――――――永い眠りにまたつく。