【タイトル】  ライトファンタジー〜勇者と魔王〜 【作者】  水瀬愁 【管理】  小説家になろう[ウメ研究所] 【サブタイトル】  f/愚弄(7)(第77部分) 【ジャンル】  ファンタジー 【種別】  連載完結済[全82部分] 【本文文字数】  1345文字 【あらすじ】  語られるは旋律、輪になって踊る道化師達の伝説。ある道化師は勇者の名を語り、またある道化師は魔王の名を名乗り。王道から成る、世界の真実をぶち壊す、ファンタジーストーリー 注意 小説には著作権があります。この小説を無断で再配布・転載する事は著作権法で禁じられています。 (C)水瀬愁 ************************************************ 「ナナが……まだ眼を覚まさねぇ」  クロシュが苦々しげに漏らした。チチルが心配して話しかけ、ミシェルが冷たい表情を前だけに向ける。  この地は、砂漠ということもあって枯れ果てているのか、魔法が使えない。少なからず大気に含まれる魔力を使ってこの世に不可思議(まほう)を顕現させる概念であるが故の、短所であろうか。  頬を伝う大粒の汗も拭わないミシェルは、だから今残りの三人といっしょにいるのだ。そうでなければ一っ飛びしているに違いない。  そう考えるのには、レスナが消えたというショックをいくらか本能的に緩和せんとしていることにも関係がある。  一杯一杯のミシェルは、さくさく前に進んでいくのみ。クロシュもあえて咎めることはしない。鋭利な刃物を向け合うような、緊迫した雰囲気。チチルが間であたふたと混乱する。  ゴゴゴゴゴゴゴゴ――  まるでその瞬間を狙ったかのように、 「ッ!!」  砂漠を、凄絶な速度で潜り進む巨影が一つ。  ミシェルが気づいて振り向くが、相手が相手すぎる、不意打ちを阻止するには至らなかった。  ≪サンドワーム≫ 地龍がごとき巨体を駆使して砂漠を統べる、魔獣。  地上へ舞い上がる際の、一瞬の砂嵐。大波がごとく、その場の小さき子達を襲う。  ミシェルも例外ではない。警戒も十分にできていない中の突然の攻撃に、すぐ応戦もできず、怯む。本領を発揮できないどころか、それを補う程度にも動けない。自分らしくないひ弱さにミシェル自身驚く。  その頭上から≪サンドワーム≫が図体を下ろしてきた。眼どころか顔という構造すらしていない、それ。大きすぎる口の中には、無数の舌が蠢いていていざとなれば外界に伸びる捕食者となる。  ミシェルに、それが向かう。ぐにゃりと粘着質な音をたてて開かれた口から、赤黒く途方もなく細長いそれが姿を露とする。呆然と、グロテスクなそれを目の当たりにするミシェルはわなわな震えるだけ。 「――」  一瞬置いて、舌は伸び行った。多数であることから、様はまさに鉄の槍の雨。空気を裂く音が連続する。  ――死ぬ。  ――助けて。  願うけれど、叶えてくれるであろう相手は居ない。来はしない。  そう気づいた途端、捨てられた子犬のように怯え、ミシェルは自分を抱きしめて膝をつく。見開かれる瞳が、声にならない悲鳴をあげて揺れる。 「ミシェル――さんッ!!」  砂嵐を突き破ったチチルが間一髪割り込んで、掌低を構える。拳から放出される"力"が障壁に成り、舌は来襲を阻止された。  だが、すべて防ぐには量がありすぎた。たった一つ障壁を抜けた舌が、チチルの肩口を掠って地面に打たれた。チチルが顔をしかめる。  突然の乱入に一撃で決することはできなかった。しかし二撃目以降はもうないと≪サンドワーム≫は自ら迫っていく。  大きく開かれている口は、さらに拡げられた。人の図体ほどはある牙が、はっきり見える。その奥で待ち構える無数の舌もまたしかり。  地面ごと吸い付かれて、二度と逃げられぬ煉獄に二人は喰らわれてしまう―― 「愛(まな)に愛(あい)されなさい」  その瞬間。桃色の閃光が煌いて、  それに飲まれた≪サンドワーム≫は、目が眩むチチル達が視界を取り戻したときには消えて無くなっていた。  その遥か天空よりゆっくりと舞い降りてくる、閃光と同色の飛龍と――  ――『第一聖女』