【タイトル】  ライトファンタジー〜勇者と魔王〜 【作者】  水瀬愁 【管理】  小説家になろう[ウメ研究所] 【サブタイトル】  f/愚弄(9)(第79部分) 【ジャンル】  ファンタジー 【種別】  連載完結済[全82部分] 【本文文字数】  1556文字 【あらすじ】  語られるは旋律、輪になって踊る道化師達の伝説。ある道化師は勇者の名を語り、またある道化師は魔王の名を名乗り。王道から成る、世界の真実をぶち壊す、ファンタジーストーリー 注意 小説には著作権があります。この小説を無断で再配布・転載する事は著作権法で禁じられています。 (C)水瀬愁 ************************************************  身は激情に委ねる。  気は激情のままに。 「アアアア!」  砦の天空、ナタリフが構えるそこに上り詰めてクロシュは狂気に取り込まれる中で舌なめずりをした。  どう料理するか、そんなことを考える捕食者の気分。対しナタリフは、そんなクロシュの様子にやれやれと眉を顰める。  "怒りに突き動かされ、一瞬はクロシュに――\"  怒りを表現する刃を、虚空より生成する。  だが手に持つ量では足りぬというように、拒絶の赤い影が立ち昇る背後から千はくだらない数を奔流させた。  向かう先はナタリフ。一閃に束ねられた億刃は、主より先に到来しに行く。  "――|応撃(おうせん)の一瞬"  だがそれは、片手から障壁を展開するナタリフに遮られる。  遮られた刃がナタリフの上下左右に流れていく最中、後尾につくクロシュも同じ目に合う。 「ガガ――ァァッ」  宙に爪を立て、弾かれた勢いを殺しきり、クロシュは呻きを漏らした。  ――なんという失態だ。  ――こんなことだから、誰も救えない。誰も護れない。  強く成れ。 「ア――」  強さを求めろ 「アア――」  輝かしい笑顔を無くした君(・)を、世界から根こそぎ取り去ってしまえ。 「アアア――――」  復讐に身を委neロ 「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア――!!!」  今の自分を完全否定して、  途絶えない絶叫をあげて、  クロシュは、跳んだ。  怒りは身に  怒りは血に   怒りは刃に  故に身は刃  故に血は刃  "逆転と波乱を孕む第三瞬目――\"  ナタリフの前からフッとクロシュが消えたと同時、驚きにナタリフが目を見開くのと同時、  ――クロシュがナタリフの背後に、移(い)く。  クロシュのレベルの移動を、見れぬはずがない。ナタリフは脳裏に四文字を浮かべる。  瞬間移動――クロシュの全貌に紋様(・・)が重なった。 「コれde……」  世界と自身に走るノイズ。  ナタリフの追いつけない速度に任せて、クロシュが処斬をついに繰り出す。 「終ワり――」  だが、忘れてはならない。  ナタリフにも"高み"は望めるのだと。 ◇ 「ミシェル。私は、あなたが未だ苦しんでいることが解ります」  彼女が、ミシェルに背を向けて呟く。 「あなたの呪(くるしみ)。どこまでも付き纏ってきて、きっとあなたをどこまでも絶望させることでしょう」 「……」 「ミシェル。私に、左胸を預けることができますか」  ――彼女に救われる覚悟を見せられますか。  勿論。ミシェルは微笑んで、両腕を左右に伸ばした。  それを返答ととって、彼女が振り向く。  パァァァァ――  同時、ステンドガラスから降り注ぐ光にまぎれて|それ(・・)が姿を露にした。  おぼえがある。自分を≪サンドワーム≫から助け、自分を救う光となった|桜陽竜(さくらひりゅう)に違いない。ミシェルは思わず頬を綻ばせた。  ――頭の中がぼんやりする。  ――でも、心地良いから、もうなんでもいい。  瞳のハイライトが消えていく。しかし彼女は、柔らかい微笑をピクリとも変えず、大丈夫ですよ安心してくださいとでも言うようにミシェルを見つめるばかり。  それを見据えて、桜陽竜を見上げて、ミシェルは無意識の内、キスをねだるときのように顎を上げて、  ゆっくり目を閉じる―― 「ッ!?」  閉じきるのも待たずに、桜陽竜が雄叫びをあげた。  そして、恐るべきことに、パカッと桜陽竜の腹が|多数の目を開けた(・・・・・・・・)。  瞳の部分が盛り上がって、身と同じ色をした枝を生やす。  それは多回の枝分かれを繰り返して数を増やし、驚愕で目を見開くミシェルの前で豪雨となる。  次の瞬間―― 「……お前は、とことんバカな聖女だ。マリス」  ミシェルを背に隠し、  マリスに不敵に微笑みかける、  エヴァンジェリン・Q・リリ。  全身を桜色の枝に貫かれて、口端から赤い血が一筋こぼれた。