【タイトル】  ライトファンタジー〜勇者と魔王〜 【作者】  水瀬愁 【管理】  小説家になろう[ウメ研究所] 【サブタイトル】  f/愚弄(11)(第81部分) 【ジャンル】  ファンタジー 【種別】  連載完結済[全82部分] 【本文文字数】  1124文字 【あらすじ】  語られるは旋律、輪になって踊る道化師達の伝説。ある道化師は勇者の名を語り、またある道化師は魔王の名を名乗り。王道から成る、世界の真実をぶち壊す、ファンタジーストーリー 注意 小説には著作権があります。この小説を無断で再配布・転載する事は著作権法で禁じられています。 (C)水瀬愁 ************************************************  駆ける。  逃げる。  ――砦下町とは逆の方向。誰も居ない荒野が一面に広がる。  駆ける。  逃げる。  ――後ろを振り返れば、もう砦すら見えない。  駆ける。  逃げる。  ――無心が、解けた。  緊張状態から抜け、レスナはよろめく。だが、胸に抱える存在の息遣いを感じて、倒れることは耐えた。  窺う。  絶え間なくあがりそうになる悲鳴を押し殺すように、ミシェルはレスナの腕に噛み付いている。それでもくぐもった呻きが聴こえてきているのだから、ミシェルは相当ひどい痛みに苛まれているのだと分かる。  ふと、瞳が訴えてきた。  助けて――  涙に濡れた顔は迷子になった子供のごとく幼げ。  力が振り絞られて、ミシェルの手はレスナの顔に触れんと伸ばされる。  その手をレスナが掴もうとしたその時、ミシェルは力尽きた。 「あ……」  レスナの手は掴もうとしたものを掴めず空を切る。ミシェルの手が、重力にそって振り下ろされて振り子式に小刻みに揺れた。  瞳はまだ開いていて、レスナに訴えているけれど。  確かに息絶えたのだ。  生か死か、という認識は必要ない。常識的に考えれば、人は生きることがままならないだろうから。  ――凍っていた。  躯を覆う棺のように。  その表現は、次の瞬間、語弊となる。  氷ってしまった、躯は棺ごと。凍てつくだけでは飽き足らず。  棺の中を覗いてもミシェルは見えない。 「――」  レスナは声をあげずに泣く。  抱きしめるものは、涙のように冷たくて。 「真実が、黒くも暗いバッドエンドであるのは嫌いか」  ひとしきり泣いたのを見計らったように、その者はレスナに声をかけた。 「ハッピーエンドを迎えない世界は、嫌いか」  レスナは顔を上げる。その者を見据え、言葉を無くしたように何度も何度も頷く。  レスナの回答に満足がいったのか、嬉しげに小さく微笑んでその者が片手を差し出す。  綺麗だった。白。光。  レスナは自分の両手を見下ろす。滔々(とうとう)と流れる血に塗れて、汚(けが)れている。黒。闇。  でも、レスナは手を伸ばした。  白へ。光へ。その者へ。  レスナが。汚れが。黒が。闇が。  その者に接する。綺麗に接する。白に接する。光に接する。  其処は地平線。白い天空と、黒い海原。その境。レスナもまた其処に指先を届けたのだ。  此処に――居る。  誰でもない自身(レスナ)は、今此処に。黒に沈んで、黒に蝕まれ、今にも黒の一つになる。  嫌だ。抗いたい――なぜそう思うのだろう。黒のことなんて、何も知らないのに。  本能的拒絶。そう、理屈も無いのに結論付けていいのだろうか。答えはイエス。広大なこれは、恐れるべき対象にちがいない。  此処に居たくない――  ならば、向こうへ行けばいい。  レスナは更に、指先に力を籠めた。 『神に代わって、聞きましょう。叶えましょう。私の選んだお前の、優しき願いを――』