【タイトル】  ライトファンタジー〜勇者と魔王〜 【作者】  水瀬愁 【管理】  小説家になろう[ウメ研究所] 【サブタイトル】  FILE9:第二の魔力、封印解除・・・・2(第9部分) 【ジャンル】  ファンタジー 【種別】  連載完結済[全82部分] 【本文文字数】  4191文字 【あらすじ】  語られるは旋律、輪になって踊る道化師達の伝説。ある道化師は勇者の名を語り、またある道化師は魔王の名を名乗り。王道から成る、世界の真実をぶち壊す、ファンタジーストーリー 注意 小説には著作権があります。この小説を無断で再配布・転載する事は著作権法で禁じられています。 (C)水瀬愁 ************************************************ FILE9:第二の魔力、封印解除・・・・2        風が駆け抜ける。  セレのまとう服がなびくように揺れ、在るという実感を持たせる。  その姿は――巫女装束をした、神子。  光の結晶が羅列してできたダイヤを背に浮遊させ、自らの体もふゆうさせている。  セレはゆっくりと目を開く。その目は穏やかだった。 「【太陽は一粒の種子となりて、その身を大地に落とし、開花した】」  セレの手に鷲掴みされた闇の槍は、砂のように変化して地面に流れ落ちた。  セレに刺さっていたはずの槍も、巨大な傷口も、消え去っている。 「【大光使セレスティア】――勇者の聖光天使、私の意志のすべてを捧げた者に従い続けるために、私はあなたを倒します。  私の決意を証明するために」  セレは消える。  動きを始めていない忍者の背後に、セレは汗一つかかずに現れる。  セレは片手を忍者に向けると、小さな光の爆発で忍者を吹き飛ばした。  忍者は何度か回転して地面に着地すると、砲をセレに向けた。 「その大砲の弱点は、チャジ時間と方向転換に時間がかかること」  砲の上にたつセレ。  忍者は紅い目でセレを睨んだ。  セレはすました顔で言葉を続ける。 「本来、忍者は速さに特化した存在。  今のあなたは、魔物化を足かせにしている」  セレは左手のひらを砲に向けた。  砲は白い光を溢れさせ、中から爆発を起こす。  忍者はセレに距離を離しながら、クナイをいくつか放った。 「私は、光速の域に達する者。  あなたの負け」  忍者の耳元でつぶやくセレ。  クナイはすべてたたき落とされていた。  セレの指先は忍者の背に触れている。 「ゲムオバ」 「!!」  忍者の体が白き光を放つ。  忍者は目を見開くが、すぐに顔の輪郭がわからなくなるほどの光になる。 「死の世界に――――罪とともにおちなさい」  光が霧散し、それとともに忍者が消滅した。  セレの完全勝利、セレは勝利を実感する間もなく動き出した。  リュークスの、主の戦いを、有利なものにするために――         「お姉ちゃんは終わったか」  フレイアは笑みを浮かべる。  勝つことはわかりきっていたが、リュークスに与えられた開花を使うための決心をセレがしたことに、安堵を覚えたのだ。  昔、トチ狂ってしまったセレを知っているフレイアは、服従という道でもセレが本来の笑みができることがうれしくてしかたがない。  元々、リュークスが独裁する人間ではない。セレを服従させてもいない。  意志疎通、一心同体。そんな言葉があう状況に、セレとリュークスはなっていた。 「考えるのはやめましょう、ムカつきますし――  いまは、この戦いを終わらせるのが先です」  フレイアは、自らの背で白い羽根をまき散らす二つの翼をはためかせる。  その胸に背負うのは――大きめの十字架。  鈍器ということでは武具になりそうな、銀色の表面を持つ十字架の中心に、蒼い透き通った宝石が埋め込まれている。 「【生贄十字使 フレイア】罪なき者の死を、その身に味わってください!!」  フレイアは風守に十字架を向ける。  宝石に光が集まると、蒼い極太の光線が放たれた。  風守は爪を振るい、光線を防ぐ。 「翼にともれ、幾重の光!!」  翼が青白く光る。  フレイアはそれを、風守に向けて振るった。  地面を這う衝撃破とそれの先をいく竜巻が生まれ、風守を襲う。 「【牙竜・魔骨斬連撃襲】」  風守は爪を何度も振るい、その斬撃で衝撃破と竜巻を防ぐ。  フレイアの十字架には四つの光がたまっていた。 「【全光発】」  十字架の横にともる光、四つが宝石に共鳴し、極太の光線を放った。  忍者が飲み込まれ、爆発を起こす。 「ふぅ、威力調整が難しい・・・・」  フレイアは息を吐く。  刃こぼれし、いまにも壊れそうな爪が、爆発によって生まれた砂煙を吹き飛ばした。  忍者は爪を振りあげたまま、フレイアを感情のない目でみる。  フレイアは十字架の縦を両手で持ち、剣のようにする。  そのとき、十字架が二回ほど鼓動したかと思うと、一回りほど大きく分厚くなった。  その姿は剣というより、左右に刃を持つ槍だ。 「鈍器を扱うのは得意分野なんですよ?――剣よりも、ね」  フレイアは翼を広げて駆けた。  セレより速くはないが、残像を残しながら忍者に向かっていくフレイア。  忍者は後ろに駆ける。  フレイアに距離を詰められるのを恐れての行動、だが、フレイアの射程から逃れることはできない。 「はっ!!」  フレイアは十字架を大振りする。  十字架の先が風守の体に命中した。  風守の体が何回転もしながら、柱の並列に突っ込む。  一つの柱に当たっても勢いは止まらず、ふたつみっつと突き抜け、最後の柱でやっと勢いを止める。  忍者の爪はぼろぼろと崩れ、全身血塗れだ。 「ま、最後くらいはちょっと技を使いますか」  フレイアの手にあった十字架が上空に舞い上がる。  十字架は青白い光に包まれ、倒れている風守に先が向く。 「一撃です、必殺の一撃――」     【クラッシュ・コレダ】      十字架が、残光を筋のようにしながら、隕石のように落ちる。  落下地点が白く光り、忍者を照らす。  光は、十字架と地面の距離が縮まれば縮まるほど強くなり、風守の輪郭がわからなくなるほど明度が増したとき、二つの距離はゼロと化した。       「我が未来の――糧となり、生け贄となれ」      波が起こった。  十字架によって圧力をかけられ、できた穴を塞ぐように土砂が流れる。  フレイアは範囲外をさまよい、威力の度合いを確かめている。  整えられていた地面に、いくつもの突起とムラがあらわれ、十字架の落下地点は大きく盛り上がっている。  だが、それだけのはずがない。  青白い点が生まれ、瞬時に膨れ上がる。  土砂がまいあがり、地面を削る効果音が鳴り響く。  聖堂の高さを越えた円球になると、まるで地面から吹き出すように、上空に伸びていく。  岩や土の破片が舞い上がり、砂になって消える中、フレイアは上の方を目を細めて睨んだ。  ゆっくりと萎んでいく光は最後の一筋をなくし、跡にはクレタと、その中心にある十字架が残った。 「ちょっと威力が低いですね――――まあ、加減しましたしこれくらいが妥当でしょう」  十字架はふっと消え、フレイアの腕の中に抱えられる。  傷一つない、青い光が揺らめく宝石を指でいじくり、フレイアは聖堂をみた。 「サクラさんになにかがあった――? わからないけど、お姉ちゃんがきてから――」  地響きが鳴り、地面がゆれる。  聖堂の周りに亀裂が入り、聖堂内から黒い魔力が溢れる。 「いったいこれは――!?」  聖堂の頂点から闇の筋が溢れ、聖堂全体が崩れるような音が響く。 「フレイアちゃん!」  セレがフレイアを見つけ、フレイアがセレを見つける。  お互いが手を取り合ったとき、聖堂全体が紫と黒に染まり、爆発する。 「弟君!!」 「兄さん!?」  闇の波動が連続してセレとフレイアを襲う。  聖堂から離されたフレイアとセレは、聖堂跡から出てきた何かを見る。  その姿は龍。鎧のようにツヤのある、二頭の龍。 「あれは、いったい――?」  フレイアはつぶやく。  セレは龍の口で輝く二つの剣に、目を見開いた。  ひとつは【勇者の牙】といわれる、白き光でできた神々しき剣。  もうひとつは、最近勇者の手で大鎌と化したはずの――【隠されし 黄金の 太陽】。  リュークスの完全敗北を告げる、龍の叫びが空間を震わせた――              時は少し遡って――         「うにゅ〜〜、すごい連携だな〜〜」  サクラはうざったそうに言う。  二人の忍者がサクラの周りを動き、長期戦に持ち込んでいるのだ。  サクラが一体にタゲットすると、もう一体が阻止してくる。  サクラはつねに警戒しているため、気力が底をつき始めていた。  それに対し忍者方は、戦闘初期と変わらぬ速さで動き回っている。 「忍者の得意分野、忍耐で戦ったら勝てない、か」  クナイがサクラの背後に迫る。  サクラはそのクナイを振り返ると同時に掴みとった。 「こっちからガンガン攻めさせてもらうよ!!」  サクラは走り出した。その瞬間、サクラの体が赤い光を一瞬放つ。  サクラの走る先は、忍者の動き回るルト上。 「・・・・・・」  忍者はサクラの動くと同時にルトを変え、円を崩さない。  サクラと忍者の距離は一定のまま、サクラの走りが止まる。 「はあっ、はあっ。これじゃ埒があかない――リュークス君が心配だって言うのに!」  サクラは忍者を目で追い、クナイを放ったが、すぐに別のクナイにはじき返された。  サクラはため息を吐き、たまに闇の爆発が起こっている方を見る。 「無事でいてね・・・・・」  サクラのつぶやきは、爆発にかき消された。          そしてリュークスは…… 「はぁぁぁあああ!!」  リュークスは龍の皮膚を大鎌で切りつける。  大鎌は濃いオレンジと赤の、炎をイメジさせる姿を持つ。  龍のまとう、最強の鎧の皮膚はリュークスの一撃をものともしない。 「私は貴様等を倒し、任務を遂行する!!」  卵月の言う任務とは、剣の死守のことだろう。  卵月は、いくつかの手裏剣を、龍とリュークスに放つ。  リュークスは身をひねるが、手裏剣がかすり傷を作る。  龍は避けることなどせずに、手裏剣を直に受け止め、弾いた。  龍の皮膚には擦り傷ができる。  どちらも、致命傷にはなっていない。 「滅!!」  卵月はクネクネと曲がる刀を片手に持ち、リュークスに振りかぶる。  リュークスは舌打ちし、大鎌の棒でそれを防いだ。  押し引きを繰り返すリュークスと卵月に割り込むように、龍が口を大きく開いた。     【ヴェノム】      龍の口に黒と紫が混ざった闇の砲弾が生まれる。  それはリュークスと卵月を吹き飛ばせる大きさを持っていた。 「・・・・私を甘くみるな」     【忍術・痛み雨】  卵月の側面が閃光を放つと、何十ものクナイと手裏剣が砲弾に激突する。  それは砲弾が打ち消されても止まず、龍に白い摩擦跡を残していく。 『ふん、人間ごときには、このようなことしかできまい。  我を苛つかせることしかできない蠅も同じだ』 「・・・・なにをみて言っている? しっかりと己を見据えろ」  龍にできていた擦り傷が徐々に拡大し、ドス黒い血が溢れている。 「私の能力【拡痛斬】を刷り込んだ忍具を受けた貴様は一番始めに死ぬ。  そして、二番目に死ぬのは貴様だ」  卵月はリュークスに目を移す。  リュークスにできた傷は致命傷と化しており、血が滴り落ちていた。 「回復は効かん、貴様等に待つのは二択」  卵月はリュークスを弾き飛ばす。  リュークスは傷口を押さえ、卵月を睨む。  卵月は刀を構え、言葉を続けた。     「私に瞬殺されるか、能力でじわじわと殺されるか――  安心しろ、貴様等は前者にしかいくことはない」          戦いは、まだ終わらない――