【タイトル】  ショートショートすと〜り〜ず【  変  】 【作者】  水瀬愁 【管理】  小説家になろう[ウメ研究所] 【ジャンル】  恋愛 【種別】  短編小説 【本文文字数】  1086文字 【あらすじ】  高校生の僕らは、不安に塗れながらも何かが先に待つ道を突き進む―― 注意 小説には著作権があります。この小説を無断で再配布・転載する事は著作権法で禁じられています。 (C)水瀬愁 ************************************************  生きていく――  人混みを掻き分けるようにして、僕たちはあてもなくさ迷い歩く。  彼女は、僕の隣をとぼとぼと歩いている。  虚しく、冷たく、繋ぎあっている手と手――彼女の温かさは感じられない。 「……美樹、さ」  ずっと在り続けた沈黙を破った、彼女の声。  僕は彼女へと顔を向けた。  思わず立ち止まった僕の少し前を、彼女は単調に歩き続け。  慌てて小走りに追いつく僕は、彼女の呟きの続きをなんとか聞き逃さなかった。 「美樹……進学方針、変えるんだって」  彼女は目を細めて、言う。 「詳しくは聞いてないんだけど……多分、同じ大学には行けないと思う」  ――何かを堪えるように、目を細めて。 「同(おんな)じ部の人もね。分野が同じで、大学もいっしょに行けたらいいねーって言ってた人がいるんだけど……違う夢追うって、ごめんって。クラスメイトもそう……お気楽に笑ってるだけじゃ」  堪えているものが何なのかはわからないけれど。 「みんな……みんな、変わっちゃうんだ。今の自分から卒業して、一段上に――今よりもっともっと上に、上がってく」  きっとそれは――とても悲しいものだろうから。 「私は……どう変わっちゃうんだろ? あなたのこと、嫌いになりたくない――変わりたく、ないよ」  そっと、抱き寄せた。  堅く強張った彼女の肩を、トントン、と優しく叩く。 「変わったら、僕のこと嫌いになるの?」  彼女は静かに俯いた。 「僕は――もっと好きに、変わってほしい。嫌いになるんじゃなくて、もっと好きになってほしい、かな」  やっと、握り合う手に力が込められる。  惜しむことなく力を込め、しかし痛くならない程度に乱暴を避けて、握り返した。  彼女は小さな嗚咽をあげて、僕へと顔を上げた。 「……そんなこと、言われると――もっと依存、しちゃうよ?」 「気づいてなかったかな」  手を離す。  間髪入れずに彼女の肩へと手を回した。  彼女は僕より少し背が低いから、僕の目の前に彼女の柔らかなセミロングが来る。  励ますように優しく、しかしぎゅっと強く、彼女を引き寄せた。 「僕はもう依存しちゃってるから――そっちも依存してくれないと、困る」  強く、強く。  彼女の髪へと顔を埋め、これ以上続けられる言葉もなくなって。  高校生活も後数週間となった今、悩むことは途方もないくらいに多いけれど。  なくしたくないものがなんなのか、とか。それがどれだけなくしたくないか、とか。  そういうことがわかっているから――まだ、迷走なんてものをしてはいない気がする。  彼女も僕の首に頬を擦らせていたが、唐突に僕の耳元へと唇を寄せ。 「ありがとう…………」  涙に潤む顔で笑みを作って、そう言った。  ただひとつのものだけを握り締めて――